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成人T細胞白血病(ATL)の原因ウィルスとして、1980年にヒトTリンパ向性ウィルス1型(HTLV-1)が発見されました。教科書的にみるとHTLV-1は、C型レトロウィルスに属し、遺伝子にRNAを持っています。
ヒトの細胞は、核の中にDNAという遺伝子があり、この遺伝子に書かれた情報をもとに生命活動に必要なたんぱく質を合成します。このとき、とても長い2本鎖のはしごであるDNAを左右に分けて、m-RNAという設計図に移し替えて、小さな分子量にし、運びやすくしてから、核から持ち出します。そして、細胞質にあるたんぱく合成装置に設計図を渡すことでたんぱく質が作られます。この流れがヒトの世界では基本となりますが、このウィルスはまったく逆の方法で感染を成立させます。
ウィルスが血液中のT細胞に接触すると自分の遺伝子(RNA)を細胞に注入します。この時RNAからDNAを作り出せる逆転写酵素とインテグラーゼも合わせて存在し、先ほどとは逆のコース(RNAからDNA)をたどり、ウィルスの遺伝情報はDNA化されて感染したT細胞のDNAの一部としてランダムに取り込まれます。いわば他人(ウィルス)の遺伝情報が自分自身になってしまう現象で、このことをプロウィルスと呼びます。この遺伝子は、HTLV-1感染から数十年の経過後に、感染リンパ球の遺伝子的な変化が積み重なって「がん」が発症すると考えられています。発症に至る少なくとも初期の過程で、HTLV-1のタンパク質「Tax」が重要な役割を果たしています。しかしながら、HTLV-1感染がなぜATLを発症させるのかについて、まだ明確な答えは得られていません。
ウィルスに感染しているが発病していない人のことを「キャリア」と呼んでいます。キャリアの半数は日本の南西部の九州(鹿児島・宮崎・長崎・沖縄)に多くいますが、九州から遠く離れた北海道、三陸海岸、紀伊半島や四国南部などの地域でも見つかっています。
ウィルスの感染経路は3つのパターンが考えられます。最も比重の大きい母子感染、次に夫婦間感染、輸血による感染の3パターンです。
母子感染(垂直感染)はATL発症に直接結びつくと考えられており、母親がキャリアの場合、主に母乳に含まれるリンパ球を介して感染し、その子供は15-30%の感染確立が推定されていました。2番目の夫婦間感染(水平感染)は精液中のリンパ球を介して感染が成立すると見られ、男性から女性への確率が圧倒的に高く見られます。成人後の感染からATL発症は稀とされており、現実は放置されていると思われます。
第3の輸血に関しては、現在、広くウィルス抗体検査を実施しているので感染機会はないと考えてよいでしょう。